東京高等裁判所 昭和36年(ネ)1889号 判決
一、当裁判所も被控訴人の本件申立を、原判決の認容した限度において、正当と判断するものであつて(被控訴人の申立中、原判決が却下した部分については、被控訴人は不服を申し立てないから、右の部分は当審においては審理の対象とならない。)、その理由とするところも、次に附加するものの外は、原判決の理由の説示と同様であるからこれを引用する。
二、本件仮処分決定の出された後の昭和三六年六月二七日に東京高等裁判所で仮処分異議事件の判決があり、その事件の当事者である被控訴人の同業者が腕時計バンドの製造販売についての仮処分による制約を除かれたことは控訴人も争わないところであつて、成立に争いのない甲第二、第四号証に原審及び当審証人上野公博の証言を総合すれば、右腕時計バンドは本件仮処分の目的とせられたエバー式のものと同様のものであり、右判決の結果右同業者等が仮処分による拘束を脱し、控訴人の特許権による権利主張の懸念から解放されたものとして盛んに右種類の腕時計バンドの製造販売をするに至り、この種腕時計バンドの大卸業者としては独り被控訴人だけが本件仮処分の拘束を受けることとなつたものであつて、ために被控訴人としては、本件仮処分後の右新たな事情も加わつて、顧客の喪失、他種商品の取引減少等、この種仮処分によつて通常蒙る損害以上の損害を蒙るおそれを生じたものであることが認められ、右事情は原判決認定の控訴人側の事情を考慮の上で、本件仮処分を、被控訴人に担保を供せしめてこれを取消すべき特別の事情に当るものと解するのが相当である。
三、控訴人は、被控訴人においては本件仮処分執行後も活発な営業活動を続けていて、顧客喪失等のおそれはないと主張し、当審証人酒井忠昭の証言により成立を認める乙第一号証の一ないし一〇、第二号証の一、二、右証人の証言により控訴人主張のようなものであることが認められる検乙第一ないし第一〇号証に同証人の証言を総合すれば、本件仮処分執行後の昭和三六年八月初旬の当時において、東京都区内の時計小売商の店舗に被控訴人の製造販売にかかるものと思われ、本件仮処分によつて製造販売を禁止せられているエバー式ベヤー腕時計バンドが相当数陳列販売せられていた事実は一応これを認めるに足るのであるが、真正に成立したものと認められる甲第一〇号証の一ないし七に証人上野公博の当審証言を総合すれば、右バンドは仮処分執行前の出荷にかかるか、下職の工場から出たか、ともかく、被控訴人としては、本件仮処分の執行後この仮処分取消の原判決に至るまでの間は、仮処分で差止められたエバー式腕時計バンドを出荷したことはない事実が一応認められる。のみならず、この種仮処分の存続が被控訴人の営業に相当著しい影響を及ぼすことは、仮処分の性質自体からも十分考え得るところであつて、なおその影響が、本件にあつては、前記載の事情からこの種仮処分による通常のもの以上のものであること前に説示の通りであるから、控訴人の右主張はこれを採用することはできない。
四、また控訴人は特許権侵害による損害と実施料とは無関係であるという。しかし、控訴人が日本国内において自ら本件特許権実施の事業をしていないことは控訴人の認めるところであり、また控訴人と竹本商店間に原判決認定のような実施契約の存したことも事実(尤も当審証人八木顕子の証言によれば、現在は無契約状態であることが認められる)であつて、これらの事情は、仮処分取消の特別事情の存否についての判断に当り、当然これを考慮して然るべきものと考えられるところであるから、この点についての控訴人の主張もこれを排斥せざるを得ない。
また、原判決が、被控訴人の取扱数量と他の同業者の状態から、本件仮処分を取消してもこれによる控訴人の損害はさまで大きいものということはできないというのは、他の同業者が前記東京高裁の判決により、この種時計バンドの製造販売が控訴人の特許権侵害ではないものと一応認められた結果、仮処分の拘束を脱して大量の取引をしている現在、被控訴人がこれに加わり、本件仮処分の拘束を脱して原判決認定程度の取引をすることは、右現実の状態からいえば、控訴人に新たにそれほど大きい影響を及ぼすものとはいえないとするもので、この判断も相当と考えられるところであるから、右控訴人の主張もこれを採用することはできない。
五、原判決の理由における説示及び右記載の理由から考え、本件においては、現実に執行吏保管にせられた時計バンドについての仮処分取消だけでなく、将来に亘る不作為命令の仮処分の部分についてもその取消の要があるものと認められ、右取消についての担保としても、原判決所定の金二〇〇万円は、本件全資料からしてこれを相当と認むべきである。